■小川三夫氏の講演会「木のいのち木のこころ」を聞きました
この講演は相模原商工会議所50周年記念のイベントとして開催されたものです。
小川氏は宮大工の棟梁として木造伝統建築の世界で活躍されています。
薬師寺再建工事で副棟梁を務めたことはNHKプロジェクトXでも紹介されました。
1000年の時を超える仕事の世界は、私のようなペラペラな人間が考えることと次元が違っていました。
「木を生かす」「人を生かす」に関して感服した点を記述します。
■小川三夫氏略歴
・栃木県生まれ
・昭和39年、高校2年生の修学旅行で法隆寺を見て宮大工を目指す
・高校卒業後、仏壇メーカーと建築図面の仕事を経て、昭和44年に宮大工棟梁の西岡常一氏に弟子入り
・昭和52年の東大寺大仏殿の屋根替工事など木造伝統建築の業績多数
■木を生かす
・密に植林すると競争しあって真っ直ぐな木(優良木)になる。
広い場所で独立して育った木は扱いにくいが銘木になる。
・畑で育てた木の苗を山に植える時、畑で植わっていた方角に揃えると捻じれないで育つ。
材木になっても山にあった方角にあわせて使うと1000年持つ。
・木によって耐久性が違う。ヒノキ1500年、スギ1000年、マツ500年。
自然の状態の木の寿命にほぼ一致する。
・国宝の文化財修理に国産の木が使えなくなる時代を憂慮している。
■人を生かす
・弟子は約30人。すべて住み込み。
大部屋で忍耐と思いやりが身につく。
・料理と掃除は新人の仕事。
料理と掃除をやらせると仕事の段取の巧拙と仕事への取り組み姿勢がわかる。
整理整頓によっては頭の中が整理整頓される。
・修行は20年から30年かかる。「宮大工しかできない」という人を採用する。
時間のあるときはひたすら刃物を研ぐ。
刃物を研ぐことで出来栄えに関する勘が磨かれる。
・仕事の手順は教えない。たまに出来たモノを見せるだけ。
「ああいうモノをつくりたいという」意欲が高まったときに、やらせてみる。
・教えるほうも教わるほうも「素直な気持ち」が最も重要。
中途半端な知識を持っていると素直になれない。上達を妨げる。
一度ゼロにならないとダメ。要領の良い人、器用な人は器用に溺れる。
■ここが凄い
特に「人を生かす」という面において感銘を受けました。
「人材育成」だとか「ナレッジマネジメント」という言葉が薄っぺらに思えます。
「木を生かす」という話も「人」に置き換えることができます。
1000年残る「本物の価値」は「修行」でしか身につかないのでしょう。
会場には幅広い年代の人が来ていました。主に建築業関係でしょう。
最後に小川氏が槍鉋で木を削る実演をされました。
全員固唾を飲んでカンナの刃先を凝視していました。
拍手で終わった講演後に、残されたカンナ屑は奪い合いになっていました。