納期半減の生産清流化
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製造企業のデリバリー管理とSCM
第2章 サプライチェーンマネジメントの実践
2.5 SCMを誘導する組織と管理会計
 (1)キャッシュフローに基づく評価

 前節で、個別原価計算や損益計算の問題について述べました。スループットやキャッシュフローによる評価に変えることが、その対策です。ここではキャッシュフローによる評価について数値例を示します。

 在庫削減の効果は金額評価するのがベストです。しかし従来、その評価は損益計算がベースでした。一般的に以下のような項目で金額を算定することが多かったようです。
 ・資金の金利
 ・在庫保管費
 ・売価低下、廃棄の減少
これらを合計して在庫削減の年間効果は、在庫金額の20から25%と言われていました。例えば在庫金額を1億円減らすと、その効果は0.2億円〜0.25億円/年ということです。

 製造ロットの大きさを決める方法に、経済的ロット計算と呼ばれるものがあります。段取り替えによる損失と、在庫による損失の合計を最小にしようとするものです。その計算において在庫による損失は、上記のような考え方に基づいて算定されています。

 しかしキャッシュフローを計算すると、全く違う結果になります。例を示しましょう。ふたつの製造企業A社・B社を想定します。2社の売上高・生産高・在庫は同じです。
 ・売上高18億円/年
 ・生産高12億円/年
 ・製品在庫2億円(在庫月数2カ月)
A社が販売しているのはパソコンの様な成長期の製品です。一方B社は成熟期の製品です。

 2社ともに製品在庫を半減して1億円にしたとしましょう。そのキャッシュフロー効果を計算します。キャッシュフロー計算には、本来「在庫金額」という概念はありませんが、ここでは従来の考え方に基づく製品在庫金額を計算の出発点とします。

 まず在庫保管費です。これは製品の価格と容積の比率で変わってくる項目です。小さくても高価なハイテク製品と、そうでない製品で変化します。年間の保管費用は、在庫金額×1%〜3%程度でしょう。ここではA社が1%、B社が3%とします。

 売価低下や廃棄は次のように考えます。A社の製品ライフサイクルは半年です。半年後に新製品が登場した時の売価は1/2になるとします。新製品の売価を100とすると、毎月約8ポイント売価が低下することになります。A社では製品在庫が2カ月ですから、平均して2カ月遅れの製品が売られています。そしてそのぶん売価は低くなっています。B社の製品ライフサイクルは2年です。毎月約2ポイント売価が低下しています。

 次にコストダウンの取り込み遅れです。製品在庫が2カ月あるということは、言い換えると売れた時よりも2カ月前の技術で作られているということです。製品は、設計や製造の技術向上を取り入れながら、新しいモノほど安くできるのが一般的です。パソコンのようなハイテク製品や導入期・成長期の製品ならば、3〜6%/月、年率にして30〜50%のコストダウンがあることも珍しくありません。成熟商品でも0.5〜1%/月のコストダウンがあるのが一般的です。ここではA社のコストダウンは3%/月、B社は0.5%/月とします。

 さらに、製品在庫として固定化していた資金を現金として回収できたことも計算に入れる必要があります。少なくとも在庫減少に伴う変動費支出の減少はキャッシュフローに効いてきます。A社B社とも、製造原価に対する変動費の割合は70%です。変動費支出には消費税もかかっています。

 また、法人税は基本的に利益計算を基にして課税されています。在庫を減らすと利益額の計算に影響しますから、法人税も変わってきます。ここでは法人税を税引前利益の50%と仮定します。

 最後に資金の金利です。これは従来から計算項目としてあります。しかし、キャッシュフロー計算では、得られたキャッシュ全体に対して金利を考慮します。金利の値は、調達金利・運用利回り共に、個々の企業の資金調達方法・財務状況・信用・事業内容に大きく左右されます。しかしここでは2社ともに資金の金利を10%/年とします。

 以上の想定で計算しましょう。在庫を削減した初年度のキャッシュフロー効果は次のような結果になります。
<A社(成長期の製品)における1億円の在庫削減のキャッシュフロー効果>
・在庫保管費減
・売価低下減
・コストダウン取込遅れ削減
・変動費支払減
・法人税減
------小計-------->
・資金金利
------合計-------->
0.01億円/年(1億円×1%)
1.44億円/年(18億円×0.08)
0.36億円/年(12億円×3%)
0.74億円/年(1億円×70%+消費税)
0.15億円/年
2.70億円/年
0.27億円/年(小計×10%)
2.97億円/年

<B社(成熟期の製品)における1億円の在庫削減のキャッシュフロー効果>
・在庫保管費減
・売価低下減
・コストダウン取込遅れ削減
・変動費支払減
・法人税減
------小計-------->
・資金金利
------合計-------->
0.03億円/年(1億円×3%)
0.36億円/年(18億円×0.02)
0.06億円/年(12億円×0.5%)
0.74億円/年(1億円×70%+消費税)
0.15億円/年
1.34億円/年
0.13億円/年(小計×10%)
1.47億円/年

 ここでは、在庫が減ることによって問題点が顕在化し、改善が進む効果や、市場動向への感度が増えるといった効果は評価していません。それでも従来とは大幅に違う評価となります。市場変化の速い市場に対応しているA社はもちろん、成熟製品を製造しているB社でも、在庫削減の効果は大きいのです。

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